研究概要
真核細胞内のエネルギー変換器、ミトコンドリアと葉緑体は、10億年以上前にバクテリア細胞が真核細胞内に共生して誕生しました。その他、真核細胞が別の細胞を取り込み、新機能を獲得する例は広く見受けられます。このような二種の細胞の世代を超えた持続的統合には、宿主細胞の分裂増殖に伴った、共生細胞の分裂・増殖の制御が必須です。
我々は、葉緑体とミトコンドリアの分裂が、それぞれ祖先のバクテリアと宿主真核細胞の両方に由来する部品から構成されるハイブリッド装置によって引き起こされることを世界に先駆けて解明してきました。本研究室では、(1)葉緑体、ミトコンドリア、その他の細胞内共生細胞の分裂が、如何にして宿主細胞によってコントロールされているのか、(2)逆に、共生体のエネルギー生産・物質代謝が、宿主細胞の分裂増殖にどの様な影響を与えているのか、(3)これらの機構がどのように進化したのかを解析することにより、二つの異種細胞からどのようにして新たな細胞が誕生し進化するのか、その基本原理を解明していきます。
研究の方針
研究材料には主に単細胞の真核生物群を使用しています。すでに研究室内で培養している生物種だけでは無く、研究の目的に応じて野外から採取してくることもあります。具体的に対象とする生命現象にもよりますが、多くの生物に共通する基本原理を知るため、または生息する環境等によってどの様な違いがあるかを理解するために、1つの研究テーマに関して複数の生物種を扱うこともあります。また研究の目的に応じて培養系の開発から始めることもあります。実際に屋外から採集してきた生物を使用することによって初めて解明できた生命現象もありますし、遺伝的改変なども出来るようにになった例もあります。従って、多くの研究者が同じ問題課題に集中して競走しているようなモデル生物研究とは異なる研究を独自に進めることが可能です。人それぞれ得意なことがあるので、現在の研究室メンバーはそれぞれ自分の得意な点を生かした研究を自身では進め、不得意なことは他の研究室メンバーまたは研究室外の共同研究者に助けてもらいながら進めています。研究室の皆さんは、このようにしながら独創性のある研究をしたいと考えながら日々活動しています。
これまでの研究内容についての解説など
- 「葉緑体分裂増殖の制御機構とその進化」 Plant Morphology (2011) (日本語)
- 「葉緑体から見えてきた細胞内共生による大進化」 RIKEN NEWS (2010) (日本語)
- "Dividing the photosynthetic spoils" (2009) (英語)
- "Dynamic Trio: FtsZ, Plastid-Dividing, and Dynamin Rings Control Chloroplast Division" Plant Cell(2003) (英語)
現在進行中の研究
- 藻類・植物細胞における葉緑体の分裂機構の解析
- 細胞周期と葉緑体分裂の関係に関する研究
- 葉緑体以外の細胞内共生バクテリアの分裂機構・分裂制御機構の解析
- 光合成などの共生体の代謝活性と宿主細胞の分裂増殖の関係に関する研究
- 光合成酸化ストレスへの対応機構の研究
- 細胞内共生体、細胞内小器官の分裂機構の進化に関する研究
- 国内の硫酸酸性温泉より単離した真核の単細胞藻類群モデル研究系(ゲノム編集など)の開発
- 高バイオマス生産に向けた高温・酸性耐性藻類の創出(JST・CREST 完了)
- 弱酸性化海水を用いた微細藻類培養系及び利用系の構築(JST・MIRAI)